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起業家 成功途中物語 かなり不揃いの起業家達 Vol.5
 
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平成18年11月出版、起業家が24名集まり8ページずつを執筆
今後、2年に1回ずつ自分の成長を20年間書き続ける。

交通問題の解決を目指してスタートアップ
起業家成功途中物語の本

名刺表

名刺裏
 

交通に関する子供の頃からの思い

 小学校三〜四年の頃に以下二つのことを思い始めた。以来三十五年間、基本的思いは変っていない。
   ・排ガスを撒き散らし交通事故で多数の人を殺すクルマが世の中に多過ぎる
   ・鉄道をもっと合理的に運行すれば、はるかに便利にできる
 昭和四十年代後半から五十年代、私が小学校高学年から中学・高校の頃、国鉄のサービスが非常に悪く、赤字も増える一方、ストも頻発して徹底的に非難されていた。子供ながらに、自分が国鉄総裁になった方がもっと鉄道を便利にできるなどと生意気なことを夢想していた。
 大学一年の秋から四年の秋までの三年間、徹底的に自動車を使った。一年間で三百五十日は自動車を運転し、電車に乗る日は十日以下という生活だった。ずいぶん贅沢をと思われようが、交通の仕事をライフワークにすることをイメージしていた。私は何でも現場主義で、実際に自動車を乗り回し、東京三百キロ圏の道路ネットワークをほとんど知った上で、道路をいくら建設しても渋滞は解消しない、自動車は二十一世紀の主たる交通システムたり得ないと身を以って思い知った。
 大学・大学院で交通を専門に研究した時期、国鉄の分割・民営化の議論が進んで改革が実行され、昭和六十二年に新生JR各社が誕生した。その間に、鉄道が充分に能力を発揮できていない理由や歴史を外の立場で学んだ。国鉄には経営の自主権が与えられず、物価対策と称して公共料金の筆頭である国鉄運賃は値上げを抑制され、一方、多数の政治家により全国で「我田引鉄」がされた。それを改めるのが民営化だった。鉄道に能力を発揮させるには、規制緩和を進め鉄道事業者に経営の自由を与えることが不可欠との思いは、当時の勉強により揺るぎないものとなった。

JR東日本での勤務時代

 昭和六十二年に修士課程を修了したが、新生JR各社は採用が一切なく、研究者の道も視野に入れて博士課程に進学した。翌年、JR東日本が技術系のみ採用を始め、大学院を中退し第一期生として入社した。多くの人から「子供の頃からの夢がかない、自分のしたい仕事ができて羨ましい」と言われた。当時は中途で退職するなど思いも寄らず。。。
 鉄道は、多くの部門・職場・人の連係プレーによって動いている。研修で多くの職場を回り、正式配属後も半年から二年で異動し多くの実務経験を積んだ。国鉄時代と同様に組織は縦割りで、出身学科と若干の本人の希望により進む進路は分かれた。私の場合は保線部門が主体となり、現場や管理部門の経験も重ね、研究部門も三回経験できた。
 そんな中、鉄道を便利にするにはダイヤを良くすることが第一と考え、運転部門への配属を希望して例外的に輸送指令も経験できた。輸送指令には日々列車運行の情報が最も集まり、さらに泊り勤務後に自主的に駅・運転区・車掌区等を訪ね歩き、列車運行の仕組みと問題点を勉強した。
 その間、経験と思索を重ねれば重ねるほど、事実を知れば知るほど、子供の頃からの思いは強くなるばかりだった。私は、合理性を欠く規制は改め、新しい技術を導入し、顧客指向の便利なサービスを提供すれば、鉄道や交通は大きなビジネスチャンスを持ち、また様々な交通問題を解決することは社会的にも大きな意義を持つと信じ続けている。しかし会社は、鉄道や交通は成熟産業、交通問題の解決は一私企業の取組みで達成できるものでなく国家的あるいは政治的課題とのスタンスで、正直なところ欲求不満が溜まる一方だった。


どうして起業したのか?

 平成九年、ある人材養成塾の第四期に、交通部門の規制緩和で急先鋒の慶大商学部の教授が講師でいらしたので入塾し、引続き翌年の第五期にも入塾した。その塾のOBのご縁で、平成十年八月にエンゼル証券(株)の細川信義社長のお話を伺い、人生観が大きく変った。「今の日本、大企業や中央官庁に、フツフツとしている優秀な人間がドッサリいる。そういった人達が組織を飛出して起業するようになってこそ、日本は良くなる」
 それまでは、自分の志と会社の経営方針や担当業務がかけ離れていても、いつかこの組織を変えてやるんだと星雲の志を抱き、起業など全く考えていなかった。それが細川さんのお話を切っ掛けに「起業も一つの選択肢」と考え始め、早速、ある起業家向けビジネススクールに入塾した。鉄道の事業計画をまとめたところ、塾長からもご評価を得られた。
 その後も、会社に勤務しながら、社会問題解決・起業・鉄道再生・LRT(次世代型路面電車)実現といった様々な会に参加し、世の中の動きを知り、多くの方と知合った。乗合タクシーやLRTの事業計画を作成してビジネスプランコンテストで表彰も受けた。
 会社へ「退職して起業したいと考えています」と申出るたびに「早まるな」と言われながらも、週末とアフターファイブで起業の可能性を模索し、平成十七年二月に上司へ退職を申出た際には「これでもう三回目。これ以上引留めても考えは変りそうもないな」と言われ、四月末を以って退職した。
 その前後から本格的に起業準備を進め、自己資金と私を応援して下さる方々のご出資で一千万円を集め、十二月に(株)ライトレールを設立した。lrt.co.jpというずばりのドメインも取得した。

(株)ライトレールの目指すもの

 (株)ライトレールの目指すのは交通問題の解決。「ライトレール」という覚えやすいネーミングとしたが、ライトレールあるいは鉄道だけをやりたい訳ではない。私の基本的考えは以下の2点である。
   ・交通問題解決には、鉄道を中心とした便利な「共用」交通システムの普及が不可欠
   ・交通サービスの生産・販売主体は、自由な経済活動を許容された民間事業者とすべき
 道路渋滞・大気汚染・地球温暖化・交通事故・通勤地獄・公共交通の低利便性や衰退といった交通問題を解決し、さらには交通を通して地域の活性化に貢献したい。交通問題の多くは、現代社会の生活がクルマに過度に依存していることが原因である。クルマは、多くの場面で便利な交通手段だが、空間利用とエネルギー利用が非効率・環境負荷が大きい・交通事故が頻発といった問題点を持つ。
 しかし、だからと言ってクルマの利用をやめ、我々の生活様式を江戸時代に戻す訳にもいかない。また、アメリカから始まって日欧が真似をした自動車社会のトレンドが続き、中国・インド・アフリカと順に自動車社会になったら、地球はエネルギーと環境の問題で破綻する。その時、我々はアフリカの人達へ「あなた方は人種レベルが低いので自動車を使えません」などと言えるはずがない。
 人々の利便性や幸福度を損なわずにクルマへの過度の依存から脱却するには、交通システムの「所有」から「利用」への転換を図るべきである。各人が「個別」交通システムを「所有」するのでなく、「共用」交通システムを「利用」できる社会を実現し、効率的な空間利用とエネルギー利用・小さな環境負荷・高い安全性を達成する。
 「共用」交通システムとしては、鉄道・LRT・デマンドバス・乗合タクシー・カーシェアリング・動く歩道・レンタサイクル等、人類が既に獲得した選択肢は多々あり、それらを活用して交通サービスを生産・販売する主体は、自由な経済活動を許容された民間事業者とすべきだ。なぜなら、規制または保護されると、良質サービス提供や最新テクノロジー導入のインセンティブが不足し、経営パフォーマンスが下がり、良質で低コストな交通サービスが実現されにくくなるからである。
 公共交通事業は、企業会計としては赤字でも社会的便益を考慮した費用便益分析で黒字なら、税金を投入して維持あるいは新設すべきという意見が強い。しかし、二十数年前の国鉄の惨状、社会の期待を裏切った現実を思い起して欲しい。私は、社会的弱者の保護、過疎問題の解決、次世代人材の育成といった社会的目的に必要な公的資金は投入し、しかし民間事業者の努力の芽を摘まず、また過剰投資を生まない仕組みとして、民主導の交通事業の展開が求められていると考える。
 (株)ライトレールは、以上に関して観念論を唱えるだけでなく、それぞれの地域や路線に応じた具体論や実現に必要な技術革新や制度改変を提案し、条件が整えば自ら実践していく覚悟だ。

交通にビジネスチャンスはあるか?

 ある分野にビジネスチャンスがあるかは、ニーズとシーズがあるかによる。交通が便利になって欲しいという個人的ニーズ、自動車依存から脱却せねば環境・エネルギー問題で地球が持続可能でなくなる、高齢社会へも対応できないという社会的ニーズは間違いなくあろう。一方、自動車に代る共用交通システムを、許容できるコストで実現できるシーズも間違いなくあると私は信じている。
 特に、JR北海道が開発中で平成十九年春から試験的に営業運転を開始するDMV(デュアル・モード・ビークル)すなわち線路・道路兼用車両が、地方鉄道・路面電車の経費を革命的に低減し、かつ利便性を向上し得ると注目している。DMVは、在来の鉄道・軌道車両より大幅に低価格かつ高性能で、さらには線路外も走行でき、運転操縦も簡易である。http://www.lrt.co.jpに、その将来性の考察を掲載している。
 ニーズとシーズがあり、しかも世の中の大半の人は、ニーズはまだしもシーズがあるとは思っていない、ということは大きなビジネスチャンスだと信じて起業した。しかし、退職・起業について多くの人に相談した際、多くの意見はNOだった。「二十代前半の若者ならともかく家族のある身で、勝組みの立場を失ってリスクを背負ってまで取組むのはあまりにバランスの悪い判断」とも言われた。家族の理解も充分には得られているとは言えず、成果を出すことを以って得たいと考えている。
 そもそも、交通にビジネスチャンス云々と言うこと自体に違和感を覚える人が多かろう。一般に交通サービスの提供はビジネスでなく公共サービスと見られ、鉄道・バス等の交通事業が民間企業の自由な経済活動という社会的ルールである日本は異端であり、海外は税金投入が当り前である。
 しかし、欧米で成功しているLRTも、その経営の内実を見ると理想とは程遠い。同じ運搬具である自動車と比較して高額な車両、工場労働者・店舗店員その他の同種業務と比較して高額な運転士人件費、報酬改善を求めるストの頻発等、自らの生活の糧は自ら稼ぐのが当り前の民間の世界から見たら甘えの構造と言わざるを得ない。
 私は、一般的な見方の中では異端であることは承知の上で、交通サービスを公共サービスでなくビジネスとして捉えることが、社会的に低コストで良質なものが実現されると考えている。

(株)ライトレールが社会へお役立ちするために

 今までに書いた内容に関して「素晴らしい、社会性も高くぜひ成功して欲しい」とご評価願えたとしても、当社自身が慈善事業では持続的でない。企業である以上、収益を上げねば存続できないし、社会に役立つ成果物を生み出すには資金を調達して陣容を強化しなければならない。
 会社発足から半年強の間、関係する多くの皆さんとお話を重ねた。心ある方々は「公共交通を充実させ自動車への過度の依存から脱却を」と共通に考えている。ところが年々、地方鉄道の利用は減り、自動車の利用=石油消費・二酸化炭素排出量ともに増え続け、一方、LRT普及は採算性がネックで進んでいない。http://homepage3.nifty.com/sustran-japanでは「日本は潤沢な鉄道ネットワークを持つが、現状の趨勢では程なく大都市圏と新幹線以外は全廃されよう」と予測されている。
 経営の厳しい地方鉄道会社、緊縮財政の地方自治体とも、当社の提案にご関心を持たれても、すぐにコンサル発注できるほどの資金的余裕はない。一方、国は、増え続ける自動車利用の抑制を地球温暖化対策の喫緊の課題とし、それに役立つ自治体や民間の活動を支援する制度を充実させている。
 現在、信頼関係を構築して来た皆さんと協働で、自動車から公共交通へ利用転換させるための取組みや技術開発提案をまとめ、助成金への応募を複数進めている。いくつかでも採択されれば、大きな収益源となり、会社経営を充実させ社会へお役立ちする成果を生み出せる。また、当社の経営コンセプトに共感して出資を検討しようという企業も少しずつ開拓している。
 松下幸之助さんは「儲けが出るのは社会へのお役立ちの証し」と言われた。当社はどんどん儲けを出し、それを使ってさらに社会に対し大きな貢献ができるよう頑張っていきたい。